2026年8月、中国のショッピングモールの来館者数ランキングに変化が見られました。Meritcoによる実店舗小売のデータ分析では、上位100施設の延べ来館者数は合計約3億6,900万人となり、7月比で約9.6%増加しました。100施設のうち81施設が増加、19施設が減少し、トップ10に入った施設がある一方、夏休みシーズンの上位から順位を下げた施設もあります。
同時に、施設運営にも変化が起きています。蚊を捕まえる、スリッパを飛ばす、ジャガイモの皮をむく、ヒマワリの種を食べる。従来の販促イベントとは異なるこうした企画を、繰り返し開催する商業施設が増えています。中国で店舗を展開するブランドにとって、モール全体の来館者数に加え、人々が何を目的に訪れ、その来館が各店舗の利用とどう結び付くのかも、見ておきたい点です。
8月の来館者数は増加、施設別では明暗が分かれる
8月のトップ10は、上海が5施設、北京が4施設、青島が1施設でした。上海と北京で9施設を占めています。

上海日月光中心(打浦橋店)の延べ来館者数は、7月の404.9万人から8月には516.6万人へと27.6%増加し、順位も17位から5位に上昇しました。上海万象城(呉中路店)も403.4万人から493.1万人へと22.2%増え、19位から8位に上がっています。
一方、蘇州中心は3位から11位へ、広州の正佳広場は7位から32位へと順位を下げました。成都IFS、長沙IFS、南京金鷹(新街口店)の来館者数も、それぞれ前月比7.6%、10.8%、10.9%減少しています。全体では増加していても、各施設が同じように来館者を伸ばしているわけではありません。上位100施設という同じランキングの中で、大幅な増加と減少が同時に起きている点が、8月の特徴です。
「目的があって訪れる場所」と「日常的に利用する場所」
多くの来館者を集めるモールにも、異なる運営のあり方があります。一つは、わざわざ足を運ぶ理由を次々に用意し、モール自体を目的地にする方法です。もう一つは、地域住民の生活圏に溶け込み、日常の用事や余暇の過ごし方の中に来館を組み込む方法です。

上海万象城(呉中路店)は、前者に近い施設です。近隣住民に加え、閔行・虹橋エリアのファミリー層、若年層、商品や体験の質を重視する消費者を取り込んでいます。2026年上半期には、上海やその一部地域への初出店を含む39店舗の「首店」を導入しました。「首店」とは、中国全土や都市、特定地域など、一定の地域で初めて出店する店舗を指します。同施設では、都市公園やSoLong Parkを活用した企画、テーマ型マーケット、季節イベント、各種の体験型サービスも継続的に更新されています。
これらは、来館する理由を増やす取り組みです。新たに進出したブランドの店舗を目当てに訪れる人もいれば、テーマ性のある空間やイベント、食事、親子での遊び、スポーツを目的に訪れる人もいます。Meritcoの業界リサーチで関連施設の資料を比較すると、上海万象城では、ブランドや地域初出店の店舗、テーマ企画を継続的に入れ替える運営が目立ちます。既存のモールに新鮮さを保ち、訪れる目的を生み出し続けることに重点を置いています。

対して、上海の瑞虹天地・太陽宮は、地域住民の日常生活との結び付きが強い施設です。人口密度の高い住宅地と地下鉄の臨平路駅周辺に位置し、親子での利用、飲食や食品の買い物、映画、コレクション性のある玩具、スポーツ・娯楽、生活サービスなど、日々の利用場面が集まっています。太陽宮、月亮湾、星星堂、瑞虹坊の各施設が連携し、melandやWUNPARKなどを通じて、子どもとの外出、運動、友人との集まり、長時間の滞在を同じ生活圏の中で支えています。
このタイプの施設では、毎日のように「今すぐ行かなければならない」イベントを用意する必要はありません。食事をする、買い物をする、子どもと遊ぶ、映画を見る、体を動かす、友人に会うといった場面で、自然に選ばれることが重要です。二つの施設は、それぞれ異なる方法で来館理由をつくっています。出店ブランドが施設を理解する際にも、来館者数の規模と併せて、こうした利用場面の違いを捉えることが参考になります。
参加しやすい企画を、より高い頻度で更新する
商業施設がイベントを「小さくする」動きは、単に予算を減らすことを意味しません。年間の大型イベントに加え、参加のハードルが低く、短い周期で内容を変えられる日常的な企画を増やしている、という変化です。その代表的な例が、浙江省寧波市の寧波環球銀泰で行われている参加型の競技イベントです。2026年3月から8月にかけて、ビーズ工作、こっそり食べる「つまみ食い」、田植え、買い物競争など、テーマを変えながら企画を展開してきました。
著名人を招くイベント、キャラクターなどのIPを活用した展示、大型のテーマフェスティバルでは、施設が用意した内容を来館者が観覧する形が中心になりがちです。一方、こうした競技型イベントでは、来館者自身が企画の一部になります。応募や競技への参加に加え、撮影、作品や動画の投稿、会場を訪れた記録の発信、SNSでの共有までが、イベントを構成しています。
ほかの都市でも、蚊を捕まえる、スリッパを飛ばす、ジャガイモの皮をむく、かかとを地面につけてしゃがむ「アジアンスクワット」、種を取り除く、空気で膨らませた子ブタをあおいで動かすといった企画が見られます。共通するのは、ルールが簡単で、専門的な技能や長い準備期間がなくても参加できる点です。来館者は吹き抜け広場の外側から眺めるだけでなく、出場者、審査役、撮影者、投稿者になり、その場のにぎわいをWeChatのモーメンツや短尺動画で共有しやすくなります。
競技イベント以外にも、定期的なランニング、短期間のマーケット、趣味のコミュニティー活動、参加型のポップアップ、来館者が課題を達成する企画などがあります。既存の空間を使い、分かりやすいルールを設け、客層や当日の反応に応じてテーマ、参加方法、協業ブランドを変えていく。企画を小さな単位で組み替え、開催頻度を高めていることが、共通する変化です。

ただし、気軽に参加できることと、運営コストが低いことは別です。寧波環球銀泰の田植え競争では、土を運び込み、館内の吹き抜け広場に水田のような会場を設けました。ルールが簡単でも、体験の質を確保するための設営や運営まで簡単になるとは限りません。
継続的な更新は、吹き抜け広場や通路などの既存空間に、新しい参加理由をつくります。しかし、「いつ来ても何か楽しめる」ことが、そのまま各店舗への来店、購買、再来館につながるわけではありません。館内の回遊動線、参加テナント、イベントに連動する特典を、どのように組み合わせるかが問われます。
参加やSNSでの共有を促すという点では、こうした企画はすでに人を引き付けています。今後、出店ブランドも含めて見極めたいのは、新しい競技がいくつ生まれるか以上に、集まった人々が店舗を利用し、購入し、再び訪れるようになるかです。
※データ・分析について
本記事の来館者数・順位は、Meritcoによる中国の実店舗小売データ分析に基づき、2026年8月の上位100施設と7月の比較を示したものです。来館者数は延べ人数であり、購買客数や各店舗の売上高を示すものではありません。施設運営に関する考察は、Meritcoの業界リサーチと関連公開資料に基づき、個別施設の事例を整理したものです。
